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オウケイウェイヴの失敗は予期できたのか?

株式会社Mutual 公式note

4月19日、オウケイウェイヴが「債権の取立不能または取立遅延のおそれに関するお知らせ 」というタイトルで、下記の事実を公表しました。

  • 取引先に対する資金の運用を委任していたが、当該取引先が法的整理を行う方針であることが発覚したこと

  • 投資金額3,429百万円、運用利益1,503百万円の合計4,933百万円の債権が取立不能または取立遅延となる可能性があること

この一報を受けて、SNS等では「ポンジスキームに引っかかったのではないか?」等の憶測が飛び交っています。たしかに、21年6月期の第4四半期(21年4月〜21年6月)から3,429百万円を運用し始めてたった1年足らずで1,503百万円の運用利益が出ていたというのは、普通の投資案件とは考えにくいと言えます。

個人的に、なぜ上場企業がこのようなハイリスクな投資を行なったのか、ガバナンス体制はどうなっていたのか、本当に詐欺にあっていたのか、過去の財務諸表に異変はあったのか等色々と気になることがあったので、同社の過去の財務諸表も見ながら、今回の事件に関する考察を簡単にまとめてみたいと思います。

複数回にわたる資金調達

オウケイウェイヴは、18年10月、11月に、CVI Investments, Inc.(以下、「CVI」)を割当先として、第1回新株予約権付社債(MSCB)と第15回新株予約権(MSワラント)を発行しています(1回目発行)。
しかし、オウケイウェイヴの株価が下落していたことでMSCBとMSワラントの行使が進まない可能性が高まったことから、第2回新株予約権付社債と第16回新株予約権を再度発行し(2回目発行)、1回目発行分のMSCBとMSワラントを買入償却しています。
さらに、オウケイウェイヴの株価は依然として下落していたことで、これらも行使されないリスクが高まったことから、20年6月に第3回新株予約権付社債と第19回・第20回新株予約権を発行し(3回目発行)、同じく2回目発行分のMSCBとMSワラントを買入償却しています。

上記の取引を簡単にまとめてみると、下記のようになります。

適時開示情報を基に筆者作成

要するに、

MSCB・MSワラントで資金調達

株価が下落

転換価格・行使価格を修正したMSCB・MSワラント発行

既存のMSCB・MSワラントを買入消却

というのを繰り返していたということですね。
なぜこんなことをしていたのでしょうか?これは、最初の調達が行われた19/6期ののCSを見れば分かります。

オウケイウェイヴ_2019年6月期有価証券報告書

MSCBで2,749百万円を調達したものの、無形固定資産の取得(2,452百万円)とM&A(847百万円)でほとんど使われてしまっていることが分かります。
つまり、既に調達したお金を使い果たしている中で社債の償還を回避するためには株式に転換してもらう必要があったため、転換・行使価格を修正する目的で複数回発行し直していたということです。

買収・投資の失敗

オウケイウェイヴは、最初に調達したお金を使ってまず下記の3社を買収しています(下表の金額は買収額である一方、CS上の金額は買収対象会社が保有する現預金を差し引いた金額なので、両者には差異があります)。

オウケイウェイヴ_2019年6月期有価証券報告書を基に、筆者作成

いずれもフィンテック関連の事業会社なので、オウケイウェイヴが仮想通貨を含むフィンテック領域に参入しようとしていたことが分かります。

また、Palantir Technologies Inc.という会社から、2,242百万円でライセンスを取得しています。同社は、ピーター・ティールがチェアマンを務めていた、AI、サイバーセキュリティ領域で事業を展開する会社です。
オウケイウェイヴがフィンテック領域で事業を展開していこうとする中で、ハッキン グ防止を実現するサイバーセキュリティソリューションや仮想通貨に特化したアンチマネーロンダリング対策サービスの共同展開等を想定していたようです。
2,749百万円を調達してすぐに2,242百万円をライセンスの取得に使っているので、相当大胆な投資であったと言えます。

上記のM&Aとライセンス取得は19/6期に行われていますが、20/6期のCSを見ると、投資有価証券にも1,530百万円が使われていることが分かります。

オウケイウェイヴ_2020年6月期有価証券報告書

これはビート・ホールディングス・リミテッド(以下、「ビート社」)という東証2部に上場していた外国法人の株式を取得したことによるもので、ブロックチェーン技術を使用した暗号化技術の開発を受託する資本業務提携の一環で行われています。

2,749百万円を調達してから、M&Aに848百万円、ライセンス取得に2,452百万円、投資有価証券に1,530百万円と立て続けに大きな投資を行ったため、20/6月末の現預金残高は1,086百万円となっています。

オウケイウェイヴ_2020年6月期有価証券報告書

しかし、これらの投資は思うようにうまくはいきませんでした。
まず、20/6期の有報の連結PLを見てみましょう。

オウケイウェイヴ_2020年6月期有価証券報告書

減損損失が792百万円計上されていますが、内訳を見ると、この大部分は買収した際に発生したのれんとテクニカルライセンスに係るものです。

オウケイウェイヴ_2020年6月期有価証券報告書

ちなみに、21/6期には、テクニカルライセンスの残額1,711百万円に対して全額減損損失を計上しています。

また、投資有価証券評価損は、ビート社に係るものです。1,500百万円を投資して、その期に1,450百万円もの評価損が生じているのは、ビート社が上場会社であり、株価をベースにした時価評価が行われているからです。
なお、ビート社は21/6年に全て売却されています。

つまり、オウケイウェイヴは、MSCBとMSワラントにより調達した資金でかなり積極的にフィンテック領域に参入するための投資を行ったものの、ほとんどが芳しくない結果となっていたということです。

危機を脱するための事業譲渡

このような状況下で、21/6期の第3四半期には、現預金残高が1,000百万円を切る状態となっていました。

オウケイウェイヴ_2021年6月期第3四半期報告書

20/6期の有報から有利子負債の返済予定表見ると、CBの償還も迫っていました。

オウケイウェイヴ_2020年6月期有価証券報告書

つまりオウケイウェイヴは、下記の状態となっていたということです。

  • 事業からキャッシュフローが出ていない

  • 外部からの資金調達は難しい

  • 現預金残高を上回る有利子負債の返済が近いうち到来する

こうなると、資金繰りを確保するためには保有している資産を現金化していくしかありません。結局オウケイウェイヴは、保有している投資有価証券を売却し、黒字が出続けているソリューション事業をPKSHA Technologyに売却することを決定しました。

これにより、投資有価証券の売却から2,636百万円、ソリューション事業の売却から6,890百万円の資金を捻出することができました。21/6期の有報からBSを見ても、手元資金が一気に厚くなっていることが分かります。

オウケイウェイヴ_2021年6月期有価証券報告書

膨らんだ預金残高の行方

投資有価証券とソリューション事業の売却によりかなりの資金を手に入れたものの、オウケイウェイヴは収益事業を失ってしまったため、何かしら事業を始めるなり、外から事業を買ってくるなりしなければ、将来的な成長は見込めません。

そんななか、オウケイウェイヴはどのような行動をとったのでしょうか。直近決算にあたる22/6期2Qの連結BSを見てみましょう。

9,159百万円あった現預金が、4,620百万円まで減っています。一体何にお金が使われたのでしょうか?内訳を探るために連結CSを見てみます。

まず営業CFを見ると、投資有価証券売却益と法人税等が大きくマイナスになっています。
投資有価証券売却益がマイナスになっているのは、別にお金が出ていっているわけではなく、営業活動とは関係のない特別損益項目を消去する調整をしているだけなので、ここでは無視します。
となると、影響が大きいのは法人税等の支払1,080百万円ですね。大部分が、前期にソリューション事業を譲渡した際に生じた多額の売却益にかかる税金だと考えられます。

次に、投資CFを見てみましょう。

投資有価証券を1,378百万円取得し、2,479百万円分売却しています。この点、投資有価証券の前期末残高は149百万円、2Q末残高は63百万円しかないので、これはつまり、2Qの会計期間中に投資したものを同期間中に売却して、1,100百万円のキャピタルゲインを得たことだと考えられます。(前期末保有分を売却したのであれば、2Q末残高が1,378百万円ほど計上されているはずだからです。)
半年で約80%のリターンなので、異様に高いリターンだと言えますよね。

次に気になるのが、投融資による支出と回収による収入です。具体的にどこにどんな種類のアセットクラスで運用されているのか不明ですが、短期間でかなり大きな金額を運用していることが分かります。
この未回収分がちょうど1,000百万円なので、これが連結BS上未収入金として計上されているということでしょう。

あとは、M&Aに797百万円、社債償還のための信託エスクロー口座への預託に1,770百万円使われているようです。
なお、M&Aは、音楽制作や映像制作等の事業を手掛ける「アップライツ」という会社を買収したことによるものです。

まとめると、22/6期2Qの間における現預金の変動内訳は下記のようになります。

筆者作成

どこを見ておけばリスクに気づくことができたか

そんな中、4月19日に下記のようなリリースが公表されました。

2022年4月19日「債権の取立不能または取立遅延のおそれに関するお知らせ」

先ほどたった半年間の投資有価証券の売買で80%のリターンを得ていたこと、内容不明の投融資に多額の資金を投じていたことについて言及しましたが、恐らくこれらも今回発表された取引に関連していたのではないでしょうか。
直近2Qの時点で未収入金が約1,000百万円だったので、そこから更に2,429百万円を預けていたのでしょう。2Q末の現預金残高が4,620百万円となっている中でこれが丸々返ってこないとなるとかなりの痛手を被ることとなります。
しかも黒字の事業は既に譲渡してしまっているため、売上高もほとんど計上されない状態となっています。

そう考えると、新たに資金調達を実施しない限り、資金繰りが厳しくなる可能性も十分にありえます。

では、事前にこのような事が発生するリスクを察知することはできたのでしょうか?
個人的には、下記の点に着目しておけば、何か不可解なことが起きていることには気づけたのではないかと思います。

  • なぜ短期間で異常なまでの多額の投資有価証券売却益が出ているのか?どんな投資を行なっていたのか?

  • 非常に短期間で多額の投融資取引を行なっているが、これは一体どこに、どのような内容の投融資を行なっていたのか?

  • 投融資の結果生じていると思われる多額の未収入金は回収できるのか?

このあたりの情報は全く開示されていませんが、IR部署に問い合わせてもなお回答が不明瞭である場合は、かなり慎重になった方がよかったのではないかと思われます。
更に今回の場合、2021年12月21日提出の大量保有報告書を見ると、オウケイウェイヴの前社長で大株主でもあった松田氏が、ほとんど全ての保有株を市場外で売却していることが分かります。なぜこのタイミングで大株主が売却しているのか?と考えることができれば、少し慎重になった方がよさそうだと思えたかもしれません。

もちろん、これらをもって今回の件が発生することを予期することは不可能だと思いますが、少なくとも何か変なことが起きている可能性は察知することができたかもしれません。

あと個人的には、今回の件に関してはコーポレートガバナンスがどこまで効いていたのかという問題も大きな論点になるのではと思っています。
金額の大きな投融資の実行について、そもそも取締役会に上程されていたのか、上程されていた場合、リスクや取引の妥当性について議論されていたのか等々、明確化すべき点がいくつかありそうな気がしています。

いずれにせよ、真相はまだ分からないことが多いので続報を待ちたいと思いますが、上記考察が今後投資実行時のリスクを検討する上で少しでも役に立てば幸いです。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました!!

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